君のアンダーの色が知りたい
「そういや、なんで手前は俺の裸が見たかったんだ?」
事後、ホテルを出る時間が近づいていたので、二人でこういうホテル特有の広いバスタブに浸かってくつろいでいたら、中也が今更な疑問を口にした。
「そんなの、中也の想像通りだよ。思い付きの嫌がらせ」
「本当ろくなこと考えねぇよなぁ」
「君よりはまし……あ、そうだ。ねぇ中也、もうヤッてしまったことだし、今後は一人で処理するのも大変じゃない? 思ってたより良かったし、何ならこれからも連絡くれたら、君の性欲処理につきあってあげてもいいよ」
「…………そりゃ、正直ありがてぇけど。何も返せねぇぞ」
「構わないよ。私も気が向かなかったら断るしね。私以外の人間とはセックスできないのなら、その方がいいでしょ」
「……そうだな」
なにか迷うことがあるのか言葉を曇らせつつ、先に上がると言って中也は立ち上がった。ほんとに下の毛無いんだね~としげしげ眺める私を無視して浴室を出て行く。
「……さて、これからどうしてやろうかな」
ちゃぷん、とお湯に半分顔を沈めて、私はこの先のことを考え始める。とりあえず一回きりというのはなくなったけど、中也の性格上、自分から「溜まってるから相手してくれよ」とは、そうそう言ってくることはない気がする。
中也は、私に特別な感情を持っているわけではない。たまたま私だけが触っても大丈夫な人間だから、セックスできると思っただけ。
では、そもそも、なぜ私から触れられることだけは大丈夫なのか? 彼が羊の構成員からの裏切りを受けたのは、まだマフィアに彼が入る前の出来事だ。そこまで特別扱いしてもらえるほど既知の仲ではなかった。
でも、私は彼と出会った当初から今まで、割とずっとこんな感じの距離感で、頭を撫でたり、頬をつねったり、殴り合ったり、そして彼が汚濁を解放する度に、直接その身体に触れて止めてきた。
気づいてないだけだ。中也はお子様だから。
私だけが自分の執着に気づかされて、こんな気持ちよすぎることを鼻先にぶら下げられて、中也だけ平気そうにしてるなんて許されない。
「おい、いつまで入ってんだ。そろそろ出る時間だぞ」
心を引きずり出して、思い知ってもらう。中也もまた、私という人間に奥底で執着しているということを。
「はいはい。……ところで中也、ラブホ初めてじゃないの? まっすぐここに連れてきてくれたけど、ひょっとしてこんな展開になる日を夢見て、前からリサーチしてくれてたとか」
ばたん! と乱暴にドアが閉まる音がした。置いて行かれてしまったようだ。本当に短気な犬である。
「この先、楽しみだなぁ……生きる楽しみができちゃった」
性欲処理という言葉は、わざと使った。
私への執着に気づいた後に、きっとその事実に悩み苦しむはずだ。身体を重ねれば重ねるほど、ただの処理なんかでは説明のつかない快楽の深淵に堕ちる。二人で。
早く見たい。私の愛を求めてもがき苦しんでくれる中也を。自分でもまだ気づいていないだろう、彼の心のアンダーグラウンドに隠された感情の色を。
それがどんな色をしているのかは、私自身のそれを開いて見てみれば、たぶん分かることなのだろう。
私たちは、全然気は合わないけれど、とてもよく似ている。だから中也のことで、私が知らない、分からないことなんて、この世には一つも存在しないのだった。