ねまき
そろそろ日付が変わろうとしている。
「ねぇ中也、さっき隣にいたカップルの話聞いてた?」
「…さぁ。生憎、盗み聞きの趣味は無ぇな」
バーの壁に掛けられた古時計の針がてっぺんに近付くのを眺めながら、あのうるせぇ鳩が鳴き出す前に帰ろう、と中也は考えていた。
「エロいパジャマを着てあげたのに!って言われてもな」
「聞いてたんじゃない。中也もいつも似たようなスウェットだし、ちょっとあの子を見習えば?」
同じブランドの寝巻きを置いておいたら何の確認もなく着ているくせに、何を言い出すのか。中也は内心呆れながら、ふと思いついて言ってみた。いいぜ、と。
「……着てやるよ、エロいパジャマ。着たら何してくれる?」
「え」
「ばーか、冗談だよ」
「何それ!?別に私、中也がきわどい下着とか着たって何とも思わないのだけど!?」
「知ってる。つうか、パジャマの話じゃなかったのかよ」
そう、知っている。
誰にも見せない、地味な部屋着を着ている俺に、手前がひときわ興奮するってことを。
もうすぐ日付が変わる。明日は久しぶりの休みだ。