神様はおみとおし
すきな子が、自分のことをすきじゃない。
それがこんなに腹立たしいことだとは知らなかった。
太宰は、余計な知識を増やすことが嫌いで、それらを一つも忘れることのできない自分のことはもっと嫌いだったが、これほど知りたくなかった事実ってないよなぁ、と思う。
「なに見てんださっきから。金取るぞ」
「お金? あるよ、ホ別五万でいい?」
は? ほ? と怪訝な顔で聞き返す、何も知らない少年。
人間社会に出てからのキャリアは小学生みたいなものだもんな、と思いながら、「人間」になる前の彼はどんな形をしていたのだろうと、肌の奥の奥、きっと熱くて、誰にも見せたことのない場所を想像する。
何も知りたいことのない私の前に、荒神という面白すぎる存在が現れてくれたのに、その神様は馬鹿で乱暴で能筋で背が小さくて無駄に顔が可愛い。そしてすごく鈍感だ。
「……お賽銭あげたら、言うこと聞いてくれるかなぁ」
いいぞ、と間髪入れずに答えがあった。
青い瞳が、私を覗き込んでいた。