会社の気になるえらいひと

2020年9月14日

 就活のつなぎで応募した派遣の仕事は、森コーポレーションの受付嬢。毎日冷房の効いたロビーに座ってにこにこ笑っていればいいだけの仕事と思っていたら、複雑なルールが沢山あって、先輩も怖いし、はやく正社員でどこかに受かって辞めたいって思ってた。
 
(……あ、今日も会えた)
 
 エントランスに現れた赤い髪の男のひと。
 ボルヴィックの飲み残しを、側にいる彼より明らかに年配のひとに無言で持たせて、私たち受付には目もくれず、すたすたとゲートへ一直線に歩いて行く。
 私は黒く染めてるのに、あんな赤い髪で、私と身長も同じくらいなくせして、所属も名前も分からないけど絶対えらいひと。
 
 彼が受付の前を通り過ぎるとき、ガン見していた私の頭を先輩が乱暴にわし掴んで下げさせた。
 ふっ、と笑った声が聞こえた。
 ああ彼が笑ったのかしら、こっちを見てくれた?
 気になって先輩の手を振りほどき頭を上げたとき、ばんばんばん! と運動会か刑事ドラマでしか聞いたことのない破裂音がして、いつの間にか私の顔の前に彼の黒い手袋があった。
 その手から零れ落ちた三発の弾丸。
 
「……悪いな」
 
 翌日、私の契約は打ち切られた。