君のアンダーの色が知りたい
それからの一週間、私は毎日中也と顔を合わせた。
もちろん偶然の出会いでも、約束して待ち合わせたわけでもなく、行動予定を探って先回りしていたのである。
最初は酔い潰してから中也のマンション。自分のベッドへ直行しようとする中也に「シャワーを浴びてから寝た方がいいんじゃないの」なんて親切面で近づいて服を脱がせようとしたら、空気をも裂くような回し蹴りで距離を取られて、そのまますごい剣幕で部屋から追い出された。
次はポートマフィアのビルの中にある中也愛用のジム。誰もいない早朝から筋トレに励んでいた中也が(彼のこういう姿を見るにつけ、自分と気が合わな過ぎてげんなりする)、トレーニングを終えて更衣室に入り、ウェアを脱いだ瞬間に「ばあ!」と登場してみせた。面食らった顔をした中也の懐に入り込み、このままパンツを下ろしてしまえば――と手を伸ばしたとき、中也が携帯端末をピピッと操作して更衣室の至る所に隠されていた侵入者迎撃用のセントリーガンを起動し、無数の銃口を一斉に私に向けた。いつからこんなの設置してたの、と苦々しい顔をして退散するしかなかった。
珍しく自分の車で任務に出ていた中也をタクシーで尾行し、高速のサービスエリアで助手席に乗り込んでやると、喫煙所から戻ってきた中也が私を見つけ、呆れた顔で溜息を吐いた。
そのときは、手前は何がしたいんだよ、とだけ言って、追い出すのも面倒だったのかそのまま自分も乗り込み車を発進させたので、これはいけるかもしれないと思った私は「このまま熱海で降りてさ、温泉に入っていかない? 私、いい場所を知っているのだよね」そんな風に持ちかけた。
中也はたっぷり三分は返事をしなかった。
なんで俺なんだよ。三分後にそう呟いて、急に車内の窓を全開にした。ばたばたと海からの強い風が入ってきた。ねぇいま真鶴って見えたよ中也、過ぎてるって中也、中也ってばちょっと聞いてる? こちらを全然見ない中也に呼びかけていたら、その横顔が少しだけ緩んだ気がしたけれど、結局、寄り道せずまっすぐ横浜で降ろされてしまった。
知ってると思うけど、私は非常に飽きっぽい男である。
「あ~~~~あ。めんどくさくなっちゃったな~~」
連日のサボりの罰で国木田から家電屋へのお使いを命じられた帰り、小腹が空いて一蘭でラーメンを食べていたら、急にこの数日間の自分の奮闘がばかばかしく思えてきた。
別に中也の裸なんて、見なくても何も困らなくない? 下の毛が何色かなんて知らなくても、どうせストームブリンガーが出ればそのへん全部書いてあるんだから(たぶん)。
もうあの駄犬を追い回すのも飽きたし、何をこんなにムキになっていたんだか。やめよやめよ。そう決めたときだった。隣の客席との仕切り板をコンと叩いて、中也が横に座った。
「よぉ、ストーカー。今日も会ったな」
「……人聞きの悪い。尾けてきたのはそっちでしょ」
「今日はな」
中也は着ていた黒いコートを脱いでカウンターの下に仕舞うと、すぐに来たラーメンを受け取って、ぱちんと良い音をさせて箸を割った。
「相変わらずの飽き性かよ。だから嫌なんだ、手前の相手をすんのは。まともに受け取った分だけ馬鹿を見る」
「食べ終わる前に替え玉頼むクセ、変わんないね」
「スープが冷めるのがやなんだよ。あーやだやだ、そうやって俺から歩み寄りゃ話をそらす」
しばらくずるずると隣の男がラーメンを啜る音だけを聞く。私はもう食べ終わっていて、無為に席を占拠しているのだが、この店は店員と目が合わないから気が楽だ。
「……歩み寄るって、私が君に何してほしいのか言ったら、聞いてくれるの?」
「聞くよ」
「ほんとに? 私のこと嫌いなくせに?」
「聞くって言ってんだろ。まだるっこしい野郎だな」
「じゃあ……」
私、中也の裸が見たいんだけど。
この狭いラーメン屋で暴れられたら困るな、言う場所を間違えたと言った後に思ったが、仕切りの向こうから間髪入れずに「いいぜ」という答えが返ってきて、その簡単な言葉の意味がすぐには理解できずフリーズしていた間に、どんぶりを下げている気配がした。食べるの早すぎ。
「じゃあ、行こうぜ」
どこに。元通りにコートを着て席を立った中也に斜め上の角度から見下ろされながら、そう質問したかったけれど、頭の良さが災いして、私にはたぶんこうじゃないかって、もしそうだったらどうしような行先が分かってしまっていた。