悪いことというのはどうしてこう続くものか。
「よぉ、太宰…昨日ぶりだな。今まで、一日もどこにいやがった…」
「あのね中也…どうして今日もこの部屋にいるの。会えちゃったじゃないか。ほんと、顔も身長も考えることも変わらないね…」
足が勝手に会いに来てしまった私と、私が来ると思って待っていた中也は、お互いの顔を「おまえがどうにかしろよ」という思いを込めてじりじり睨みつけながら、一日ぶりの再会に居ても立っても居られず互いの着衣を脱がせ散らかしながら抱き合って、ベッドに縺れ込んだ。
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悪いことというのはどうしてこう続くものか。
「よぉ、太宰…昨日ぶりだな。今まで、一日もどこにいやがった…」
「あのね中也…どうして今日もこの部屋にいるの。会えちゃったじゃないか。ほんと、顔も身長も考えることも変わらないね…」
足が勝手に会いに来てしまった私と、私が来ると思って待っていた中也は、お互いの顔を「おまえがどうにかしろよ」という思いを込めてじりじり睨みつけながら、一日ぶりの再会に居ても立っても居られず互いの着衣を脱がせ散らかしながら抱き合って、ベッドに縺れ込んだ。
わざわざ探しに来てやったわけじゃない。
ただ校舎の窓から彼の姿が見えたから、彼が一人で延々と水の底を覗いていたから、うんざりしながら冷やかしに来てやったのだ。
「何してるのさ、こんな所で」
「太宰、丁度良かった」
これ何だ? と彼は自分の足元の凍った水面を革靴の踵で叩いた。
「プール」
プール。私の言った言葉を繰り返し、へぇこれが、と珍しそうに氷の奥を覗き込みながら、彼は氷上にしゃがみ込んだ。
ほぅら、やっぱり悪霊なんて出ないじゃないか。
向かいのマンション工事の騒音で目が覚め、手元に置いておいたリモコンでリビングの明かりを点けると、私は寝袋からごそごそと這い出した。時刻は十時。よく眠れた。
キッチンに残されたままの元住人のやかんでお湯を沸かし、昨夜コンビニで買ったドリップパックのコーヒーを淹れて、ああ紙カップの付いているやつにしておくんだったと思いながら、食器棚からブルーのマグカップも拝借した。一応軽く洗ってみる。
そろそろ日付が変わろうとしている。
「ねぇ中也、さっき隣にいたカップルの話聞いてた?」
「…さぁ。生憎、盗み聞きの趣味は無ぇな」
バーの壁に掛けられた古時計の針がてっぺんに近付くのを眺めながら、あのうるせぇ鳩が鳴き出す前に帰ろう、と中也は考えていた。
こんなとこでも本の虫か、太宰。
罰当たりなとこに座ってんじゃねぇよ、と溜息を吐いて、中也は太宰を見上げた。
毎朝決められた時刻に全ての生徒が集められ、教師の長い説教を聞かされる場所である礼拝堂だが、夜もふけた今は、その説教をする教師が立つ教卓に腰掛け分厚い本のページを捲っている太宰と、とうに寮の門限を過ぎてから現れた中也の二人きりである。
君、まだその首輪をしてくれているのだね。
カウンターに頬杖をついて背中をだらしなく丸め、いかにも酔いつぶれている風に装った声音で絡んでみると、間に一つ席を空けて隣に座っていた男がうざったそうに片手でしっしと追い払う仕草をした。
眠り姫はもう目を覚ましたかしら。
其処此処に脱ぎ捨てられていた中也の外套、手袋、帽子を拾い、Qが監禁されていた小屋に戻ってみると、果たして姫様はいまだ夢の中であった。
ああ、そういえば今日は太宰君のお誕生日だねえ。
紅葉姐さんの使いで任務の報告に出向いた折、首領の森は万年筆で机上の書類に今日の日付を記しながら、そんな言葉を漏らした。
「あの野郎にも誕生日なんてもんがあるんですね」
「そりゃあ今ここに生きているのだから、生まれた日は存在するよ。彼も人の子だ」
ああ~~~~~……つまらない。つまらないつまらない、面白くない、退屈だぁ!
探偵社のソファにだらりと身を投げ出してそんな遣る気のない声を上げても、国木田が彼を咎める気配はなかった。
なぜかと言うと、その声を発したのが私――太宰治ではなく、この探偵社が探偵社として機能している所以である存在、名探偵・江戸川乱歩であったからだ。
敵は消滅した。もう休め中也。
視界をみるみる塗りつぶしてゆく暗闇の中にあって、その声は頭の中に直接響く。らしくなく真面目で優しい声音。汚濁状態の俺に丸腰で近寄ってあっさりと取られる腕。
変わらねえな、と考えていたことが口から出てしまい舌打ちする。幹部である自分専用の執務室で今の独り言を聞いたのは自分しかいないが、己に対してですらばつが悪い。迂闊な口を塞ぐようにしてシガレットケースから一本取り出し、火を点けた。