2023年3月4日

 太宰がいわゆる美少年という類の顔面を所持していたことは、癪だが客観的視点で理解をしていた。
 美形の子役は成長するとちょっと崩れるなんて世間の雑談を聞いて、じゃああいつの行く先は真っ暗だな、いい気味だと思っていたのに、十八になっても奴の顔は美しいまま、四年の不在の間に落としてきたのは幼さくらいで、益々たちがわるくなっていた。
 
「君の伸びしろってほんとさ、どうなっちゃってるの」
 
 やっと唇から唇を離してくれたかと思えば、太宰の言うことはそれで。任務終わりに路地裏で一服つけていたところに現れ、勝手に喋り、勝手に近づき、俺を固いコンクリートの壁に追いつめて、唇を奪い、野良猫を触るような手つきで首筋を撫でる。
 
「……悪かったな。手前にそんな獰猛な目をさせる俺になっちまって?」
「うざ。中也はちっちゃな可愛い系に成長するものと思ってたのに、こんなえっちになるなんて聞いてない。わざとらしく人気の無い所で待ったりして……ばかじゃないの?」
 
 不機嫌な顔も嫌いじゃない。
 手を引かれ今夜もどこかへ連れて行かれる。
 ああ俺たちはそれなりにいい男に成長できたのに、行き着く先がここなんてさ。

 

2023年3月4日

 就活のつなぎで応募した派遣の仕事は、森コーポレーションの受付嬢。毎日冷房の効いたロビーに座ってにこにこ笑っていればいいだけの仕事と思っていたら、複雑なルールが沢山あって、先輩も怖いし、はやく正社員でどこかに受かって辞めたいって思ってた。
 
(……あ、今日も会えた)
 
 エントランスに現れた赤い髪の男のひと。
 ボルヴィックの飲み残しを、側にいる彼より明らかに年配のひとに無言で持たせて、私たち受付には目もくれず、すたすたとゲートへ一直線に歩いて行く。
 私は黒く染めてるのに、あんな赤い髪で、私と身長も同じくらいなくせして、所属も名前も分からないけど絶対えらいひと。
 
 彼が受付の前を通り過ぎるとき、ガン見していた私の頭を先輩が乱暴にわし掴んで下げさせた。
 ふっ、と笑った声が聞こえた。
 ああ彼が笑ったのかしら、こっちを見てくれた?
 気になって先輩の手を振りほどき頭を上げたとき、ばんばんばん! と運動会か刑事ドラマでしか聞いたことのない破裂音がして、いつの間にか私の顔の前に彼の黒い手袋があった。
 その手から零れ落ちた三発の弾丸。
 
「……悪いな」
 
 翌日、私の契約は打ち切られた。

 

2023年3月4日

 中島にとって、その日は欧州国境警備隊に配属されて初の船出であった。

「お、お、お、お疲れ様です、隊長!」

 海上の監視は僕たちがやりますから、隊長は船内で休んでいてください。今日は暑いですから! と言ってパラソルを差し出し、デッキの柵に寄りかかって真鍮の望遠鏡を覗き込んでいた隊長にじりじり照り付けていた日光を遮る。背後で彼の先輩隊員らが「あちゃ~~」という顔で見守っていた。

「ん……? ああ、確か君は密入国リストからのスカウト…異能力者の中島君か」

 左肩の白いぺリースを潮風になびかせながら、目前の男はその辺にあった手頃なサイズの木箱によっころしょと腰を下ろし、制帽をくいと上げて中島を見た。

 男の名は太宰治。黒い髪と黒い瞳を持つ日本人でありながら、軍と同等の権限を持つ欧州国境警備隊の一個連隊を任されている人物である。
 中島のような特異な能力を持つ者であれば、使える手駒としてスカウトされることはある。だが、欧州の出身でない者が肩書を与えられるまでに出世することなど他に例が無い。中島は自分と同じ国の出身である彼がどうやって今の居場所を手に入れたのか、ひょっとしたら自分と似たような境遇で国を追われた人間なのではないかと、ずっと気になっていた。だから、この第八水上機動隊への異動が決まったときは、それはそれは飛び上がるほどに嬉しかったのだ。

「そうか…これだけ暑ければ、氷山なんて現れっこないよねぇ…」
「はいっ! ……え? 氷山?」
「巨大な氷山の一つでも現れてくれれば、かのタイタニック号のように、連合政府ご自慢の特殊装甲船も綺麗にまっぷたつ、私達はみな海の藻屑と消える…どうだい? ロマンチックだと思わないか?」
「え……えーっとぉ……」

 返答に困窮して周りの人間を見回すが、近くにいて会話の聞こえていた隊員たちは全員首を振って「諦めろ」という表情を自分に向けていた。

「嗚呼、第四に戻りたいよ。第四は河川の国境警備だったのだけどね、ローレライ伝説のある場所で、私はその美女ローレライに魅了され船ごと沈めてもらえることだけを楽しみに日々仕事に励んでいたというのに…海なんて広いばかりで何も楽しいことがない」

 川と違って一度出るとしばらく街へ飲みにも行けないし、地獄だよ。と言って、太宰は肩を落とした。『水上の太宰は死にたがり』式典で一度目にした太宰の風貌と地位
だけで憧れを抱いていた中島は、そんな有名な噂話を知らなかった。

「隊長は…なぜ第四から第八へ?」

 その隊を率いる隊長自身が異動するなんて異例中の異例である。

「知らない? この海域に最近厄介な賊が現れるようになって、元の第四が隊長を含め全員沈められたんだ。私たちは再編成された第四ってわけ。君の異動を決めたのも私だよ」
「賊…そんなに強い賊をこの隊だけで…?」

 大丈夫なんでしょうか、と言いかけた瞬間、船体が大きく揺れた。甲板に出ていた隊員たちが突然ばたばたと倒れ、ピンで縫い留められるように木床にめり込んでいく。現れたか、と呟いて、太宰はデッキに立て掛けていたサーベルを杖にして立ち上がった。

「巨岩のような大男…連邦政府の機密を探っている重力使いの異能力者」

 太宰はぺリースを翻し、腰を落としてサーベルを構える。ぐっと力を込めて一閃放つと、その場に倒れていた隊員たちが見えない重力から解放されてよろよろと起き上がり始めた。これが太宰の異能力だろうか。圧倒されていると、大飛沫を上げて、海上にまるで戦艦のように巨大な大岩が出現した。遥か頭上から落下してきたようだった。
 不意に、その岩の影から何かが飛び上がるのが見えた。アアア…と地響きのような声を上げてこちらに飛びかかってくる。中島は咄嗟に太宰の前に出てその何かの拳を腕で受け止めた。目前には、燃えるように赫い髪の小柄な人間が闘志をむき出しにして中島を威嚇している。海に落ちたときに濡れたその髪が貼り付いて顔はよく見えなかった。

「巨岩のような大男という情報は間違いだったようだね…巨岩に乗っているだけの、こんなセクシーなお嬢さんだったとは」
「ハァ……? てめぇ、何言って――」

 ぴたり、と目前の人間の動きが止まった。太宰は中島とその人物の間に割って入ると、少しかがんで、その濡れた頬を優しく撫でて口付けた。

「隊長!?」
「!? んんっ! む! ん~~~!?」

 突然映画のように熱烈なキスをされた賊は動転して太宰の背中を必死に叩くが、さっきのような大技はなぜか発動せず、体格差もあってされるがままになっていた。正直何が起こっているのか分からないが、きっと太宰には自分が及びもつかない考えがあるのだろう! そう思って中島は目の前の光景を見守った。

「…………」
「んー! んむ、ん――!!」

 …………長い。ほとんど息継ぎの間も与えずに口付けを深くし、最初は優しく添えていただけの手は、ゆるくウェーブのかかった珊瑚色の髪を掴んでがっちりと拘束していた。相手の口腔内を蹂躙する音が、側で見守る中島の耳にも聴こえるほどに激しくなり、中島はいったい自分は何を見せられているのだろうと思いながら、半歩だけ後ずさった。いつの間にか他の隊員たちも集まり、事の成り行きを固唾をのんで見守っている。

「う…あ、はぁ…ん……」

 太宰の背をどんどんと叩いて抵抗していた賊は、次第にその手で彼の制服の袖にしがみ付いているような格好になり、膝からがくがくと脱力してぺたりと甲板にへたり込んだ。おおっ! と周囲の隊員から謎の歓声が上がる。太宰は自分も一緒にその場にしゃがみ込んで、海水でびしょ濡れのシャツの裾から手袋を嵌めたままの手を潜り込ませ――

「……あれ?」

 胸がない。太宰がそう呟いたのと、賊が彼の胸倉を掴んで強烈な頭突きを食らわせたのはほぼ同時だった。

「いきなり何しやがる! 変態かテメ……ん?」

 濡れた髪をかき上げてしげしげと太宰の顔を見つめた賊の顔つきは男性であった。彼の顔には中島も見覚えがあった。欧州で億を超す懸賞金のかけられている海賊、中原中也だ。

「へぇ…手前、『売国奴』太宰治じゃねぇか。新聞より実物の方が美形だな」
「それはどうも。そうか…我々の国境を荒らしていたのは君だったのだね」

 この際男でもいいかな…という不穏な呟きに中原は顔を歪め、「手前を相手にするにはちと準備が足りねぇ」と吐き捨てると、デッキの柵を乗り越えて青い海へと落ちていった。
 追いますか、と駆け寄って来た隊員が尋ねたが、太宰は少しの間思案して、いや今日のところはやめておこう、あちらさんもそのつもりだとのんびり答えた。

「太宰隊長…あの人は、敗戦国日本では『羊の王』と呼ばれた英雄です」
「知ってるよ? あんな美人だとは思わなかったけどね。そんなことより、私は自慢じゃないがどんな遠目からでも男性を女性と間違えたことはないのだよ。いやぁショックだなぁ…中原中也…本当に人間かな?」

 太宰は手に持っていたサーベルをまたその辺に無造作に立て掛けると、中原が飛び越えた柵の手すりに凭れかかって静かに波打つ海面を見下ろした。

「そういえば、海ではセイレーンというのだったね」

 この海にも、楽しみができたよ。

 太宰はそう言って、鼻歌を歌い始めた。

 

2023年3月4日

 悪いことというのはどうしてこう続くものか。

「よぉ、太宰…昨日ぶりだな。今まで、一日もどこにいやがった…」
「あのね中也…どうして今日もこの部屋にいるの。会えちゃったじゃないか。ほんと、顔も身長も考えることも変わらないね…」

 足が勝手に会いに来てしまった私と、私が来ると思って待っていた中也は、お互いの顔を「おまえがどうにかしろよ」という思いを込めてじりじり睨みつけながら、一日ぶりの再会に居ても立っても居られず互いの着衣を脱がせ散らかしながら抱き合って、ベッドに縺れ込んだ。

 社長の福沢がたちの悪い夏風邪にかかり、彼の異能力『人上人不造』が誤作動を起こしたことが始まりである。武装探偵社の社員を対象としてその異能の出力を暴走しないよう調整するのが通常の効果なのだが、その塩梅が不安定になって、何回かに一回は発動できなくなるほど力が弱まるというランダム異能力者になってしまった。異能がなくても格闘術で渡り合えると国木田は予定通り業務に励んでいるが、敦と鏡花は暴走の危険があるため荒事になる任務からは外された。与謝野も異能力の使用禁止(瀕死にさせてから異能力が発動しなくて治せないでは済まない)。谷崎と賢治はさして気にしてる風でもない。乱歩は「僕もアレがアレで推理ができないみたいだ。いやぁ今日は全然犯人が分からない!」と時々言い出す。そして私は、地味~に、時々、異能を無効化できなくなっていた。

 まあ社長の夏風邪が治るまでの辛抱だろうと全員のんびり構えていたのだが、そんなときに限って別件で森さんから一つ借りにしていたものを返してほしいと、中也と協力して面倒な異能力者を一人捕らえてきてほしいと言われてしまった。これが二つ目の悪いこと。
 そいつの異能力『織姫と彦星』は、一枚の短冊に名前を書かれた二人の人間の間に流れる時間の感覚を操作すること。平たく言えば、毎日二四時間常に「もう一年も会ってない」気にさせられてしまうという能力だった。

「君はちょっと油断しすぎじゃない? こないだの何だっけ、浮気したくなる異能にもまんまと引っかかってたし!」
「『執着していた対象を代替可能な存在だと錯覚させる能力』だ、ざっくりまとめんな。つうか手前も手前だろ、何のために首領が裏切り者の手前と俺を組ませたと思ってんだ、無効化できねぇなら最初に言っとけ、この役立たず!」
「あのね、敵対組織にそんな弱み晒すわけないでしょ。中也こそ律儀にそんなに盛り上がって馬鹿じゃないの? 昨日も! 一昨日も! 散々ヤッたのにちょっとキスしたくらいでそんな蕩けた顔しないでくれる? つられてこっちまで勃つじゃないか!」
「ハッ! 俺のせいにしてんじゃねぇよ底無し絶倫ヤロー。あの異能にハマッちまってんのはそっちだろ。待ちきれねぇって顔しやがって」

 俺の中はまだ手前のかたちに穴が開いたみてぇだってのに、身体がもたねぇよ、と、これで本気で私という男を責めているつもりなら寧ろ才能だなと呆れ返りながら、あざとく下っ腹をさする彼の手に手を重ねて、自分の手の方がしっとり汗ばんでいることに舌打ちをする。中也はちょっと笑った。

「……そんな風に私の前で笑うの、ひさしぶりだね」
「そうかぁ? 昨日は誰かさんに叫ばされてばかりだったからな」

 そんなにがっつくなよ、もう待てねぇ、と中也は一年ぶりでたった一日ぶりのあべこべな欲を晒す。

「……あの異能力者、早く君のところで処刑してよ」
「それは首領の決めることだ。手前の異能が戻ったらこっそり案内してやるよ。俺のためにもな」

 昨日も一昨日もしていたことを飽きもせずまたしているだけなのに、ああこれだ、待ってた、と思ってしまう。一年抱いてない身体。自分のものだと思い出すような、思い出させたいような、そんな貪り方をしてしまう。自分だけがこんな恥を抱えていたら、きっと殺してしまうと私は思った。中也も一緒にかかってくれて良かったと。

「何をそんなに焦ってる、らしくねぇな。心配しなくても、あと数日もすりゃ元の関係に戻る。……だろ」

 彼の声がすこし寂しそうに聞こえたから、私も包み隠さずそのまま「このままじゃ手間を省いて同棲しそう」と口に出してしまい、彼はいやらしいことをされている格好のまま、まるで似つかわしくない大爆笑をした。

「そうなったら、手前が風呂や便所から出て来るたびに盛り上がっちまう」

 想像したらまんざらでもなくてその事実に寒気がする。明日にもこの繰り返される七夕を終わらせよう。私はそう決めて再会の続きを始めた。

 

2023年3月4日

 わざわざ探しに来てやったわけじゃない。
 ただ校舎の窓から彼の姿が見えたから、彼が一人で延々と水の底を覗いていたから、うんざりしながら冷やかしに来てやったのだ。

「何してるのさ、こんな所で」
「太宰、丁度良かった」

 これ何だ? と彼は自分の足元の凍った水面を革靴の踵で叩いた。

「プール」

 プール。私の言った言葉を繰り返し、へぇこれが、と珍しそうに氷の奥を覗き込みながら、彼は氷上にしゃがみ込んだ。

「割れても知らないよ」

 青いペンキの三の文字がかすれたスタート台に腰掛ける。ずっと凍っているんだろう、今さら割れっこねぇさと鼻で笑った。

「田舎にはまだ取り壊されずに残っているのがあるって聞いたが、本当なんだな」
「そーね。私達のいた街じゃ実物を見ることはなかった。取り壊すのだってタダじゃない。放っておいた方が合理的な場合もあるのさ」

 これっていつの氷なんだろうな、と彼が言う。
 君がここに来てからじゃないの、と私は言わずにポケットから出した飴玉を口に放り込む。

「夏が来なくなって、外の水は凍って、プールっていうとあめんぼとかがいたんだろう、たしか? この中に閉じ込められたそういうのは、凍っている間なにを考えているんだろうな」
「死んでから凍ってる。死体は何も考えないさ」

 急に何をおセンチな話を始めたのだろうこの馬鹿は。こういう奇妙な行動、自分の記憶の中の中也とのズレが太宰にはいちいちたまらなく腹立たしいのだった。

 空からばら撒かれた白紙の文学書の紙片。中也は大規模なブラックホールを展開し、それら紙片を全て呑み込むことで無効化しようとした。何度思い出しても無謀な作戦である。掃除機じゃあるまいし、変なもの吸ったら壊れるとか思わなかったわけ? 本当に私がいないとろくなことを思いつかない。
 地上に落ちてきた中也を受け止めたとき、汚濁形態を解除することはできたのだが、白紙の文学書が持つ強大な異能のエネルギーは中也の重力子を逆に取り込み、切り分けられたそれぞれの紙片の世界へと持ち去った。そのとき、制御装置である中也の人格と呼べるものも分かたれ、連れて行かれてしまった。私はおそらくそのさなかに中也に触れて彼の異能に干渉したことによって、その世界と現実世界を行き来することが可能になっている。現実世界で目を覚まさなくなった中也に触れて眠ることで、彼の夢に潜るようにして。

 私の頭脳を持ってすれば、散り散りになった中也を全員連れ帰ることなど造作もないと思っていたのだが、一人目の中也の時点でもう体感時間四年は手こずっている。中学生という設定で開始されたのも良くなかったのか、世界に起こった事実と今いるこの世界の真実をまじめに語り聞かせたらものすごい生温かい目で「そういう時期ってあるよな」と言われた。頭にきて目が覚めてから隣に眠っている中也の顔に落書きした。

 与えられたシナリオから外れた行動をしたらどうなるのだろうと、中也と通っていた都会の私立校から、黙ってど田舎の公立校へ転校してみた。そこには私の知る顔が異常に多く、そのことに不気味さを感じつつも、友の顔をしたキャラクターに絡んで日々を過ごしていたら、中也の方から私を追ってきた。

「ねぇ、なんで私を追ってきたの。向こうへ帰る気はないんでしょ?」
「なんだよ、また『向こうの世界』の話か? 中二病め……やっぱ無理か」

 中也はプールの上に立ち、両手を広げる。突然氷上に亀裂が入り、驚いて手を伸ばした私を、彼はからかうような顔で見返した。

「手前と俺が十五の時、同じ学校に通って、普通に学生やってたら、こんな感じだったか。そんなことをうっかり考えちまったら、あの紙くずの『筆者』にされちまったみてぇだ。手前のことを笑えねぇ。俺が誰より……こんな世界、寒いと思ってたよ」

 彼の足元の氷が砕け散り、咄嗟にスタート台を正しく使ってしまった。躊躇いもなく跳ぶんじゃねぇよ、と彼はくすくす笑って、冷たくも温かくもない真っ暗な穴へと落ちていく。腕を掴まれ頬を撫でられたかと思った瞬間、学生ごっこをやってこのかた初めてキスをされていた。
 四年も付き合わせてわるかったな。まぁ少しは俺の気持ちも分かったろ。
 それじゃ次の世界の俺によろしくと、そう言って離された手が、目が覚めて隣にあることを確かめて、私は深くため息をついた。

 

2023年3月4日

ほぅら、やっぱり悪霊なんて出ないじゃないか。
向かいのマンション工事の騒音で目が覚め、手元に置いておいたリモコンでリビングの明かりを点けると、私は寝袋からごそごそと這い出した。時刻は十時。よく眠れた。
キッチンに残されたままの元住人のやかんでお湯を沸かし、昨夜コンビニで買ったドリップパックのコーヒーを淹れて、ああ紙カップの付いているやつにしておくんだったと思いながら、食器棚からブルーのマグカップも拝借した。一応軽く洗ってみる。

まったく、いつからこうなったのだろう。
森さんの事務所で働いていた頃も、独立して開業した当初も、そこそこスリリングで頭を使える事件の依頼を受けてきた。事務所時代に織田作という気の合う友人もできた。銀行員、SE、タクシーの運転手(これが一番向いてなかった)、などなどの職業を転々としてきたが、この探偵という仕事はどうやら他より退屈しなそうだ、そう思ってあのロリコン親父の元で真面目に勉強し、独立までしたというのに。
三年前、政界のある重要人物が自らの所有する屋敷の一つで割腹自殺した。が、この事件が自殺なのかとか他殺なのかとか犯人はおまえだとかそういう依頼が来たわけではない。その事件から二年半、親族が屋敷を片付けようにも、屋敷に足を踏み入れただけで怪現象(笑)が起こり、入った人間が身体的あるいは精神的不調をきたすということが続いた。そちらが本題だった。
早く屋敷を更地にして現金化したい親族たちは弁護士や霊媒師や我々のような何でも屋的な連中にまで方々に相談したが、なにせ超が付くほどの権力者の屋敷、下手に関わってポカしてキャリアに傷を付けたくないと、大手から中堅へ、中堅からこいつ誰?という具合に、長いタライリレーが行われ、最後に森さんからタライを受け取ったのが私だった。
私は昔から、幽霊や超常現象の類を一切信じていない。すべての事象には原因がある。だからこのときも、しばらく泊まり込んで調査をすれば、地盤の歪みとか地下からガスが漏れてるとか音波とか電波とか何らかの原因が見つかるだろうと思い、とりあえず一晩泊まってみたのだ。
すると、翌朝に様子を見に来た親族たちが、おじさんの霊がいなくなってる!と大騒ぎしたのである。私は他人の家で寝て起きただけで高額の報酬を受け取ることになった。
そのときの一件に尾ひれが付いて、知らぬ間に「心霊探偵太宰治」などという少年漫画のような恥ずかしい二つ名で呼ばれ出し、ワケあり物件に泊まってくれ、というだけの依頼がめちゃめちゃ増えてしまったというわけだ。

「いいかげん飽きてきたよね…ねぇ、そう思うでしょ?一家心中の幽霊の皆さん」

コーヒーを片手にそう話しかけてみたところで、当然返答はない。
この物件にはしばらく住んでもらって構わない、そうすれば次の人にワケあり物件だと言わずに売れるんでヘッヘッヘ、依頼人はそんな不動産事情を勝手に喋っていたが、だとしたらもう事務所兼住居を引き払って、探偵もやめちゃおうかな。例の依頼の報酬で銀行からの融資も全部返せるし。
そうだ、お金あるんだし織田作でも誘って遊びに行こう、ぱっとそう思い当たり、昨日脱ぎ捨てた靴下をまた履いて、顔だけ洗って外へ出た。

隣の家の前に、引っ越し屋のトラックが停まっている。誰か越してきたのか。たしか隣は空き家ではなかったはずだが…。そう思い、荷物が運ばれる様子を眺めていると、玄関から出てきた学生服の少年と目が合った。

「うわっ…ここに住んでんのかよ、マジか…」

陽のような色に髪を染めたその少年は、心底驚いたという表情で私を見て、そう言った。そして、ふいと視線を外し、「危ねぇぞ」と呟く。

「あぶない?何がーー」

大気を裂く音を立てて、何かが私のすぐ鼻先を横切った。
ゆっくりと目を向けると、私の左足すれすれの地面に、2メートルほどの金属棒が突き刺さっている。向かいの工事現場の上方から、数人が大騒ぎしている声が聞こえてくる。

「引っ越してきた日に家の前で死なれちゃ困るんだよ、呪われてるオッサン」
「な……」
「何だよ、気付いてねぇのか?今は助けてやったけど、明日にはアンタ死んでるぜ」
「オッサンって私のこと!?私、まだ22歳なのだけど!!」
「いやそこじゃねぇだろ!!」

この少年との出会いによって、悲しいことに私は、あの恥ずかしい二つ名に相応しい事件にますます巻き込まれていくことになるのだった。

 

2023年3月4日

そろそろ日付が変わろうとしている。

「ねぇ中也、さっき隣にいたカップルの話聞いてた?」
「…さぁ。生憎、盗み聞きの趣味は無ぇな」

バーの壁に掛けられた古時計の針がてっぺんに近付くのを眺めながら、あのうるせぇ鳩が鳴き出す前に帰ろう、と中也は考えていた。

「エロいパジャマを着てあげたのに!って言われてもな」
「聞いてたんじゃない。中也もいつも似たようなスウェットだし、ちょっとあの子を見習えば?」

同じブランドの寝巻きを置いておいたら何の確認もなく着ているくせに、何を言い出すのか。中也は内心呆れながら、ふと思いついて言ってみた。いいぜ、と。

「……着てやるよ、エロいパジャマ。着たら何してくれる?」
「え」
「ばーか、冗談だよ」
「何それ!?別に私、中也がきわどい下着とか着たって何とも思わないのだけど!?」
「知ってる。つうか、パジャマの話じゃなかったのかよ」

そう、知っている。
誰にも見せない、地味な部屋着を着ている俺に、手前がひときわ興奮するってことを。
もうすぐ日付が変わる。明日は久しぶりの休みだ。

 

2023年3月4日

 こんなとこでも本の虫か、太宰。
 罰当たりなとこに座ってんじゃねぇよ、と溜息を吐いて、中也は太宰を見上げた。
 毎朝決められた時刻に全ての生徒が集められ、教師の長い説教を聞かされる場所である礼拝堂だが、夜もふけた今は、その説教をする教師が立つ教卓に腰掛け分厚い本のページを捲っている太宰と、とうに寮の門限を過ぎてから現れた中也の二人きりである。

「罰当たりだって? おかしなことを言うなぁ。君が神を信仰しているなんて初耳だ」
「無神論者だとアピールした覚えもねぇよ」

 そう言いつつ、実際中也は神の存在を信じてなどいない。そんなものは周りが勝手にでっち上げて名前をつけただけのものであると、他ならぬ自分の身の上のこととして理解しているからだ。

「だが、この世界にはそういうモンがいてもおかしくねぇ。情報が少なすぎるから用心しているってだけだ」
「情報ねぇ」

 高さのある教卓の上から、太宰がひらりと飛び降りる。彼の靴底は綺麗に磨かれた床に触れることなく停止し、ほんの数センチの高さを保って浮遊していた。

「また気色悪りぃ技を身につけたのか」
「酷いな、君が向こうの世界でやっていたことじゃないか。重力操作……とは、ちょっと違うのだけどね」

 ありがとう、もういいよ、と太宰が自らの足元へ優しく声をかけると、浮いていた靴底は静かに床へ着地した。

「それで? 情報の不足を嘆く君は、夜な夜な寮を脱け出し校外へと出かけて、何か収穫はあったのかな」
「何も。一時間も森を歩いて、しけた町が一つあっただけだ。日付も変わってねぇのに、酒を出す店まで閉まってやがった」
「今の見た目じゃ、どうせ入れてもらえないでしょ」

 セーラーの襟の付いた指定のブレザーをぺらぺらと捲って太宰は言う。登山の真似事してまで飲みに繰り出したかったわけじゃねぇよボンクラ、と舌打ちで返し、中也は長椅子にどっかり腰掛け、煙草に火を点けた。

「あーあ、また制服のまま吸って。匂いに敏感な蘭童先生のお仕置きが待ってるよ」
「は、そんなもん。適当に逃げ出すさ」
「今の君に出来るのかな。魔法が効かないというだけで、それ以外はちょっと身のこなしが軽いというだけの子供が」
「子供なのは手前も同じだろうが。手前の方こそ、俺が授業をサボっていた間に懲罰房行きだったって聞いたぜ。週一で入れられてるんじゃねぇか? そんなに拷問されんのが好きだったならもっと早く教えてくれよ」

 会話しながらまた本の続きを読み出した太宰を見上げ、中也はぴしぴしと鞭を振るうジェスチャーをした。それを視界の隅に認め、ふ、と馬鹿にしたように太宰は笑う。

「とんでもない。拷問なんて受けていないよ。私が此方の森さんの部屋から何度も禁書を持ち出すから、他の学生への示しのために罰を与えたと装っているだけさ」

 あの人の性根は此方の世界でも変わらない。役に立つ駒は甘やかし、それを使う場面までは好きにさせてくれる。私が高等な魔法を習得することは、彼とこの学園にとってプラスにしか働かない、そう考えているのだろう。

「こんな辺鄙な場所にガキを集めて、怪しげな術を教えて、いったい何に使うっつうんだ。向こうでの世界大戦のように、魔法とやらを当てにしてガキどもを戦場に送り込むつもりか」
「おやおや、まさかとは思うけど君、此方の世界の住人たちに情が移っているのかい? ちょっと寝食を共にしたくらいで、ちょろいマフィア様だ」
「安心しろよ、同室の手前にも一切情は湧いてねぇ」
「そこは湧いてほしいなぁ」

 今、このケースに対応しうる戦力は私たち互いに二人だけなのだから、協力し合うほかないでしょ。私だって夜に君の寝顔を見るたびにカーテンレールで首を括って死にたくなるのを我慢しているんだから。と、細い指先を自らの喉元に添えて、苦しげな表情を作り、舌を出した。

「朝起きたらカーテンレールが折れてたの、あれ手前の仕業かよ。きっちり死んどくか、壊したら直すかどっちかにしろ。どうせああいうのもちょちょいと直せんだろ?」
「まあね。本当に便利な力だよ。魔法書を読むのにもさほど時間はかからなかったし、書いてある通りにやれば、一人で色んなことが出来てしまう。精霊に頼めば、冷めたコーヒーは熱々になるし、散らかした部屋も掃除してくれるし、門限を破るルームメイトのために、施錠された寮の門を開けることだってできる。異能力より良いよねぇ」

 そう言って、いつの間にか中也の胸元から掏った煙草を唇に挟み、人差し指の先でぽっと火を点けた。おもちゃのライターみてぇだな、と中也はうんざりした顔で溜息を吐く。
 吸い殻ごと焼いて規則違反の証拠を隠滅してしまってから、二人は連れ立って寮への道を歩いた。

「手前、まさかこのまま戻れなくても良いとか寝ぼけたこと思ってるんじゃねぇだろうな」
「中也は戻りたいの?」
「たりめーだろうが。何の異能か知らねぇが、いきなり訳の分からねぇ場所に飛ばされたかと思ったら、ガキの体になってるわ、魔法なんてものを勉強させられるわ、見知った顔の連中は別人で、手前だけが同じ境遇、だというのに手前ときたら面白がって一向に本腰入れて事態を解決しようとしやがらねぇ。ストレスで禿げそうだわ」

 中也が夜な夜な寮を脱け出して外を歩き回るのは、気晴らしの目的が大きかった。二人で同じ問題に直面した時、太宰が目立った動きを見せない状況下で中也があくせく駆けずり回ったところで、それは徒労に終わることが多い。ぎりぎりまで何も知らせずに、分かりにくいヒントだけ寄越して一人で策を組み立てている。太宰はそういう男だ。
 しかし、この世界に飛ばされてから既に数ヶ月、太宰は他の学生らと一緒にお勉強に励んでいるだけで、不本意ながら寮の部屋を同室にして様子を見ていても、元相棒である中也を動かすようなサインを送って来る気配もない。それどころか此処での成績が優秀でついでに見た目も良いが故に、女子から恋文を貰っては適当につまみ食いしている節がある。
 こいつはこの世界を満喫しているんじゃないか、と中也は疑念を抱き始めていた。

「龍頭抗争のときみてぇにぶん殴られたくなかったら、そろそろ真面目にやれ。俺は、あのとき以来、手前を侮って自分が馬鹿を見るのは御免なんだよ」
「……酷いなぁ。君にとってこれは、そんなに悪い状況?」
「あ? どういう意味だ」
「知っているんだよ。向こうの世界に戻ったら、君は結婚するんでしょう。欧州のお嬢さんと」
「おい、まだどこにも出してねぇ話だぞ」
「まったく、情報屋との世間話で聞いたときは耳を疑ったよ。今どき政略結婚なんて流行らないでしょ、組織の忠犬もここまで来ると滑稽だね」
「……うるせぇよ。『白紙の文学書』が焼却された今、裏技で世界を掌握することは最早どこの組織にも不可能だ。横浜を脅かす存在は潰す。その方法が、ぶん殴るかお手々繋いで抱き込んじまうかってだけの違いだ。後者を取ればマフィアの損害はゼロ。俺にとっても、悪い話じゃねえ」
「へぇ、美人なんだ」
「ああ。結構好みだ」
「やれやれ、洋モノが好きとはね、つくづく中也とは趣味が合わないよ」
「昔、手前から借りたAVのことを言ってんなら、今でも時々悪夢に見る。趣味が最悪なのは手前で、俺は普通だ」
「その最悪な趣味に付き合っていたのは誰だっけ?」
「……ここで蒸し返すのかよ、それを」

 元カノか手前は、と吐き捨てると、何とでも言えば、と太宰にしては切れのない返答がかえってきた。
 施錠されていた門を音もなく開け、互いの足音さえ消している。太宰の操る魔法は、確かに万能であった。
 中也も何かの手がかりがあるとすればこの『魔法』という存在だろうと思い、此処へ来た当初は一緒になって魔法書を読み漁ってみたものだったが、どういうわけか中也が太宰と同じ呪文を唱えても、魔法が発現することは一度もなかった。その代わり、あらゆる魔法を中也は打ち消すことができる。まるで太宰と中也に出来ることが入れ替わったかのようだった。
 無効化の能力とは、無敵で厄介極まりないものだと中也は思っていたが、いざ自分が手にしてみると、どうも使い勝手が悪い。あれこれ知恵を働かせて立ち回らないと、魔法使いに囲まれたこの世界で教師を含め他者を出し抜くのは難しい。あいつもあの能力を手にした当初は色々苦労したのだろうか、そんな風に思った。
 首尾良く寮に戻り、自分たちの相部屋の前まで来ると、扉に備え付けられたポストにファンシーな柄の封筒がみっちりと押し込まれていた。それを見もせず扉を開けて中へ入って行く太宰に呆れながら、律儀に回収して中也も続く。
 太宰の机の上には大きな紙袋が置いてあり、太宰宛てのラブレターは後で返事を書くからと太宰が言うので毎日中也がポストから引っこ抜いてはそこへ放り込んでいた。返事を書いているのを見たことは一度もなく、哀れな乙女心は山のように積み上がっている。

「おい、ゴミ箱じゃねぇんだぞ。毎日毎日キリがねぇから部屋のポストに入れるのはやめろって女どもに言っとけ」
「なぁに、男の嫉妬は醜いよ、中也」
「俺は誰かさんと違って、敵の異能空間にいる女に性欲向けられるほど見境無しじゃねぇんだよ。そのうち腰振ってる間に刺されるぞ」
「こないだビンタされたけど、魔法で眠らせたからOK」
「どのへんがOKなんだよ。全部アウトだろうが」
「中也が用事もないくせに毎晩出かけるからいけないんじゃないか。何なの? 私に何かされるとでも思ってるわけ」

 思ってるよ。間髪入れずに答えると、太宰は目を見開いた。自分で聞いておいて動揺してんじゃねぇよ、弱虫。そう言葉を続けた中也には、このときようやく答えが分かっていた。
 いつまでも貰えないヒントは、いつまでも貰えないことこそがヒントだったのだと。
 やはり太宰は、向こうの世界へ戻るつもりがないのだ。しかし、戻る方法を得ようとすらしないのは慎重で周到な太宰のやり方には反している。

「本当に、頭のいい奴の考えることはクソだりぃな。言えば済むようなことで、よくも俺を何ヶ月も拘束しやがって」

 帰ったらどれほど仕事が溜まっているのか、想像したくもない。やっと首謀者が分かったのだ、今夜は後先のことなど忘れて、自分の好きにしようと中也は決めた。

「戻る方法を探そうとしねぇのは、手前が最初からそれを持っているからだな、太宰」
「……だとしたら、どうする? 私を殺すかい」
「ああ、そりゃ当然殺す。だが、俺は情の深い男だからな。犯人の要求も、言われる前に呑んでやるよ」

 私の要求? と尋ねる太宰を無視し、中也は太宰の『ゴミ箱』の中身を逆さまにひっくり返した。何通ものラブレターが部屋の床に散らばり、最後にひらりと一枚の白い紙片がその山の上に落ちた。拾い上げると、癖のある字でびっしりと物語が書かれている。二人の青年が、少年の姿になって魔法の世界へ飛ばされ、その世界で生きていくという物語だ。

「白紙の文学書の『頁』を隠し持っていたとはな。それをこんなことに使っちまいやがって…マジの馬鹿だな、手前は」

 で、このセーラー服はどういうことだよ、と答えは分かりきっていたのだが尋ねてみると、案の定「私の趣味」という答えが返ってきた。

「あーあ……思ったより早くバレちゃった。その頁を破れば、元の世界に戻れるよ。でも、一つだけ私のお願いを聞いて」

 最後にこのままヤらせろとか言うんだろ、と言うと、うん、よく分かったね? と悪びれもせず言う。却下したら中也のケチ、ケチは結婚できないよ、と少年の顔でぶうたれた。

「そうだな、結婚はやめだ」

 そっちが本物のお願いだろ? 泣いて喜べよ、クソ太宰。

 はっと見開かれた瞳を見納めに、こんな世界とはサヨナラ。
 中也は満面の笑みで、自分宛の恋文を破り捨てた。

 

2023年3月4日

R18表現を含む内容のため18歳未満の方は閲覧しないでください。18歳以上ですか?(y/n)



2023年3月4日

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